ビールの上にスパゲティ乗せるバイト

ペットフード検品に心を蝕まれた私は(一つ前の記事)、派遣会社に「もうあそこは無理です、他のところにしてください」と懇願した。
断り下手な私が思わず語気を荒げた。

「ではですね、S川さん桜島駅はご存知ですか?」
「USJの隣の駅ですよね」
「そうです、そちらの工場に行って頂いてもいいですか?交通費500円出すので」
「わかりました!」

ちなみにうちから桜島は往復で1000円位するので普通に足りないのだが、当時困窮してた私は「どこでも行くから働かせてくれ〜」と思っていたので、二つ返事で承諾した。

派遣会社との電話が切れて10分ほど経ったあと、再び派遣会社から電話が掛かって来た。こんなの初めてだな、と電話を取った。

「あの~S川さんのお友達で、明日入ってもいいよ、って人紹介してもらえませんかね?」
よりによって友達少ない私にその電話はないだろ、と思ったが、博愛精神の化け物なので、「とりあえず探してみますね」と返し、Twitterで「誰か明日一緒に派遣行きませんか」とツイートする。
すると数秒後に同じ学部のYさんから返事が帰ってきた。あっけない。
派遣会社に「いました」と連絡を入れると、大層喜んでいた。私も嬉しい。

翌朝、Yさんと工場に向かった。
そこは一見何をしているのかわからない工場だった。しかも派遣会社から説明もされてない。不安がよぎる。帰りたいな、と思っているところ、白いキャップを支給され、説明を受けた。

「ビールの入った段ボールに、箱に入ったスパゲティのおまけをつける仕事です」

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こういうことです

流れとしては、両面テープをひたすら切る人がいて、レーンの人がビールの方に両面テープを貼る。
隣の人が上にスパゲティの箱を乗せて、バン!ってする。
その後、太いセロテープで固定する。
合理性や効率を求めて生きてる私は「これ、ほんまに全部人がやる必要ある?ないんちゃう?」と思ったが、きっと色々な理由があるのだろう。

始業後、私とYさんは、セロテープで固定する方に回された。
しかし、これが意外と難しい。
まっすぐに、美しく、流れを詰まらせないようにしなければならなかったが、すぐには慣れなかった。
作業服を着た社員が歩いて来て、「これはさーこうだよね、ていうかさーこれ短い、これくらい長くして」と注意された。何でたった今会ったお前に乱暴なタメ口聞かれなきゃいけないんだ、と思いながら「すみません」と心のこもってない返事をした。
美しさを求めると段ボールがどんどん溜まって行き、かといって急ぐとテープ同士がくっ付いて困ったことになる。どう考えても今初めて来ました、みたいな人に任せたらダメだろ、という仕事なんだけど、それを社員がイライラした感じで見ている。
最終的に私もYさんも「あーもういいわあんたら、使えねーから」と言われ、ビールの上にスパゲティ乗せる仕事をさせられることになった。

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両面テープをしっかり固定するための作業

で、あとはずーっとこう。
バン!バン!バン!ってするだけ。
こんなことに誘ってしまった隣のYさんに申し訳なくて顔が見れない。
明らかに疲れている。
でもそりゃそうだ、打ちっ放しのコンクリートの上で何時間も同じ作業をしているのだから。

一方の私はだんだんと怒りが湧いて来た。
ビールにスパゲティついてるわ!買お!ってなるか~~?
純粋に美味いビール買うやろ!
売れてもそれは誤差の範囲だから!
そもそも両面テープとか無駄、最初からそういう段ボールを作れ、全員バカかよ。ゆとりにこんなこと言われて恥ずかしいなあ!恥ずかしいなあ!まあおれは一流ではないけどそこそこに良い大学行ってるからね!あんたらとはねぇ、ココがねぇ、頭が違うわ!
初対面の人に使えねーなとか言わないから!本当に君たちは知性の!知性のかけらもないね!

ずっとこんな攻撃的なことばかり考えていた。
しかし後半に差し掛かると悟ったかのように静かな気持ちでバン!バン!とするだけの機械になった。
また尊厳がガラガラと音を立てて崩れ落ちて行く。
アーー。

そんな空虚な生き物も、終礼の合図で少し息を吹き返した。
「お疲れ様でした~(二度とくるかよ)」
とぼとぼとYさんと駅までの道を進む。
桜島から電車に乗るとすぐ隣の駅からUSJ帰りの人がいっぱい乗ってくる。同じ世界で生きているとは思えない。いや、私たちは生きているとは言えない。生きながらにして死んでいる。喜びも悲しみも奪われた世界で働かされて、何が生きているだ。
この人たちがテーマパークで刺激的な一日で過ごして来た中で、人間としての創意工夫も出来ない一日を過ごしてしまった。それがあまりにショックだった。

「梅田でさ…ご飯たべて帰ろうか…」

そういって私たちが選んだのは何故かハワイアンカフェ。
今日稼いだ給与の1/3の値段がするディナーを頼んだ。
高い金を使っている!という人間らしい行為にドーパミンが溢れた。
普段好き好んで飲まないルートビア(湿布の匂いがするコーラみたいな飲み物)を、Yさんと湿布だ湿布だ!とキャッキャしながら飲み干したとき、思った。
「生きてるぞー!」

連日の脱・人間らしさといった日々に、繊細な私の心は悲鳴を上げ、真面目に長期のバイトを探した。
そして今のバイトに就くわけですが、まあ色々あるよね…といった話をまたそのうち出来たらなと思います。

次回予告「カステラ」 乞うご期待