有益な情報

有名なインドカレーを食いに丸ノ内線で銀座に向かっていたときのこと、

地下鉄のやかましいトンネル通過音をこれでもかと切り裂く中年女性2人組の会話がずっと耳を塞いでいた。始発の池袋に到着した電車に乗ってから本郷三丁目に到着するまで。

会話の内容といえば、なぜ豊洲の高層マンションは購入価値がないのか、公立学校がいかにダメであの私立中学が優れているかといった癪に触る内容で、不愉快な気持ちがむくむくと膨らんでいった。ほらほら、あの子は中学校は普通の公立高校でしょ?だからそういったルールはわからないのよ。なんだそれ。

が、なぜこの人たちは必死になって大声を出して、我々に不愉快で不要な情報をお届けしてくれるのだろうか?ということが気になってしまい、会話から意識を逸らすことができなかった。

すると、電車が後楽園を出発した時に(いうなれば彼女らの旅路のクライマックスである)、1人が身体に障害を抱えた子供を育てながら長男を京大に入れたのはアタシ自分のこと褒めてもいいと思うワ、ということを全乗客に向かって主張した。全乗客に向かって主張したというのは私の主観にしか過ぎないのだが。そしてうるせえオバさん2人組だな、と思っていたのだが、うるさいのは苦労オバさんだけで、もう1人はむしろ普通の音量でしゃべっているということに気づいた。

ここで私の妄想が始まる。この人はそこそこ金を持った旦那と結婚したが生まれた子供が障害を持っていた。献身的な介護をしたが旦那は手伝ってくれないし褒めてもくれない。でももう1人の子供を京大に入れたのよ!誰かアタシのこと褒めてよ!丸の内線のみんな!アタシはすごいのよ!

ははーんそういうことね〜、と勝手に納得したらなんとなくこの人のことを許せる気がしてきた。

その上、電車が本郷3丁目に到着する直前、静かな方のオバさんから唯一有益な情報を手に入れることに成功した。サンシャイン池崎は、父が工場を経営していたのだが、父のタバコの火の不始末で2回工場が全焼してしまい、お金のない状況で現役で国立大学に入った、という話である。うるさいオバさんは「サンシャイン池崎って誰?」と言っていた。彼の意外な過去と自分の過去を重ね、サンシャイン池崎のことはこれからも応援して行こうと誓った。