この記事はネタバレを含む感想です。
冷たいものと温かいものを同時に、同じ手で触ると脳が混乱して、手が反射的に退いてしまうという現象がある。それと似ている!と、観終わったときに思った。
私は感動を謳ってる物語が得意ではない。物語には笑いを求めているからだ。それに私は涙もろい。ほんとうにすぐ泣いてしまう。そんな自分が恥ずかしい。劇場なんかで観ていると、ここで泣くの?と周りに思われているんじゃないかと不安になる(杞憂だと思うけど)。
「ラストシーンが60分続く」、と書いてあって、自分が想像したのは色んな物語のラストシーンが繋がっていって1つの物語を作る、みたいな話だと思っていた(アフタートークで天久さんも同様のことをおっしゃっていた)。
なので、人が安置されている瞬間から始まったとき、「マジか…泣くやつなのか…」と気持ちがすこし強張った。それでも最初の2,3分は笑えた。人が延々と様々なセリフを並び立てて悲しむ様は、2,3分で十分なほどしつこさをもたらすのだと知った。会場に行く前に、カフェで惣菜プレートを頼んで、その後に生クリームが乗ったほうじ茶ミルクを頼んで、生クリームが添えてあるシフォンケーキを食ってきたのだが、それくらいのしつこさがあった。
しかし、それを過ぎるとストーリーへの集中度が高まってきて、何だかどんどん悲しくなってきてしまった。眼に水が溜まりだす。あーこのままだと泣いてしまうな、あー泣いちゃうな、泣いちゃう!…それなのにいきなり出てきた幽霊になってしまった宮部さんが面白い……。もうちょっとで泣くぞ、というところまで感情が高まってるところに急激に笑いが注入されると、脳がパニック的に笑いで満たされてしまう。逆にその笑いで充満したところに悲しみが投入されてもより悲しみが際立って泣けてくるのだが。
初七日以降は、うっかり(?)悲しくなる瞬間はありつつも、ストーリーの滑稽さがより増して、ゲラゲラ笑っていたのだが何故か涙も止まらなかった。悲しくて泣いていたのか、面白くて泣いているのか判別が付かないくらい気持ちが混乱していた。これこそ、冷たいものと温かいものを同時に触った時と同じだと思う。いっそゆっくり泣かせてくれ!と思うのだがそれができない程度には笑いが畳み掛けてきた。
個人的には、古関さんが貝に耳を当てたときに宮部さんが語りかけてくるところがめちゃくちゃ面白かった。宮部さんがカーテンの向こうからひょい、と貝を置いたのも面白かった。うっかり落ちちゃった、みたいな感じで。あと、錫・アルミニウム婚。知らなかった。
自分が意外だったのは、終盤「死んだあなたの中で私は生きている」というくだりで、何かしらをそこに見出そうとしている自分がいて、めちゃくちゃ涙が出てきたんだけど、心のどこかで「くどい!」という気持ちがあることを発見したことだった。徹底的に悲しいストーリーを避けて生きてきたのであんまり知らなかった。いっそ悲しみに浸って泣きたい、という気持ちともう胃もたれしてるんだよなー、というのって共存するんですね。クセになる面白さが確かにある。アフタートークで大北さんが泣ける話を集めていた、って言ってたのも納得した。
自分は人の葬式出たことも、ましてや身近な人の死にも遭ったことが無いのであまり想像できないけど、そんなことが今後あって、ずっと立ち直れない、ってなった時は、
ドラマティックに思い出に浸って感傷的な言葉にまみれて、そんな自分をくどいなー、と笑いながら生き長らえれば良いなと。最後の方はそんなことを考えた。はい、さよなら。
